着付けの先生の話‐①

一時期、週4くらいで着付けの先生と

会っていた。

 

誰と仲がいいか聞かれて「最近よくランチに

行くのは着付けの先生(アラ80)」てな感じ。

 

先生と私の出会いはかれこれ私の七五三までさかのぼる。

 

母が嫁いできて子どもがまだいないときに

着付けを教えてもらっていたことがきっかけで

私たち3姉妹は「着付けといえば先生のおうちに行く」もの

だと思っていた。

 

当時から柔和な先生でやさしい人という印象。

 

私が結婚して地元に戻ってきてお茶を習うことになり

何年ぶりかにお宅を訪ねると

ふたつ返事でOKしてくださった。

 

40年近い付き合いということになる。

わたしの着付けの先生。

生まれも育ちも市内の先生。

 

働いているときに出会ったご主人と結婚し

着付けと出会ったのは30代。子ども2人が生まれて

すぐのことだった。

 

ひょんなきっかけから着つけに興味をもち

習ってみたいなと思っていたことを自身の母親に

話すと

 

「いいじゃない。その間子ども見ていてあげるわ」

とお母さま。

 

当時お子さん2歳とかそんな年齢で先生は主婦。

 

相当できるお母さまだったのだろうと

推察される…!

 

普通そんなことOKしてくれないよね、時代も

違うし。

 

先生は地元の人だから方言もありつつ、

おっとりした綺麗な言葉を話す。

 

先日うちの子どもがお世話になったときも

「あら素晴らしいわね!」と子どもを褒めて下さっていた。

 

先日市民茶会に同行させてもらったとき

お隣の方が不慣れで困っていると

 

「あのね、差し出がましいようで不快になったら

ごめんなさいね。

このお茶は、お茶・お菓子・お茶の順番で飲むの。

よければこの懐紙を使ってね」と声をかけていた。

 

帰り際その方々は丁寧にお礼を言っていた。

 

話し方、言葉遣いって大事だなぁっていつも

思わされます(早口で口汚い私)。

 

 

 

「まわりに恵まれてるのよ私」と話す先生は

お母さまの協力を得ながら着付けを習い、おもしろくなって

和裁や組紐の勉強もした。

 

着付けを習うと京都へ染め物の勉強をしに行ったり

出かけることも多かったというが、

着物が好きだったというご主人も理解があり

「私が着物に関わってるとニコニコしていたの」と。

 

思い返せば私たちが着物を着終わると、必ず先生は

ご主人に声をかけ窓からご主人が私たちの着物姿を見ていた。

 

子育てと着物関係で先生も忙しく、仲良しのご主人が

定年退職されたら一緒にゴルフ旅行に行くのが夢だったという。

ところがご主人が定年を迎える頃、先生は

着物関連の役職につきむしろどんどん忙しくなっていた。

 

定年から数年後、ご主人が倒れ車椅子生活となる。

そこから先生は、車椅子のご主人と19年介護を

しながら生活した。

 

実はその前にお姑さんの介護が終わったところだったという。

 

うちの母は可哀相がりな人なので「先生は苦労していて」

とよく話していたが、先生は

「やれることは全部やったの」と晴れやかにお話してくださるから

同情されるような話ではないと私は思っている。

 

「困ったことがあるといつも誰か助けてくれる人が現れるの」

と言う先生。ご主人が倒れたときも生徒であった看護師の方が

すぐに連絡をくれ今後の方針やケアについて親身に相談に

のってくれたという。

 

ご家族がとても仲がよく二世帯で同居していたため

家族の助けもあり、車いすのご主人といろんなところに行った。

 

「使えるお金はぜーんぶ使ってやるつもりで

好きなことしてたら、ほんとに少なくなってきてね。

ヤバい、と思ってたところで亡くなったのよね~」

と笑いながら話されるからちょっとだけ反応に困る。

 

お茶の先生にしろ着付けの先生にしろ、このお年の方の

病気系や死んじゃう系のブラックジョークはおもしろいんだけど

笑っていいんだかちょっと困る。

 

介護をしながら自宅での着付け教室は続けるも、

自らが立ち上げた着付けグループを後進に譲った。

 

自宅で教えるのは着付けに不慣れな方や

久しぶりに着たいという方、お孫さんに着付けたいと

いう方が多い。

 

着付けを学びたい人が1人でできるところまで教え、

あとはグループに任せて揉まれてもらうのだという。

 

「もうこの歳になると社会奉仕の気持ちが強いの」

という先生の授業料は1000円。

 

申し訳なくてお土産を持っていくと

授業料をもらってもらえないので難しいところ。

私は毎週水曜日に昼からお茶のお稽古があるので

水曜の午前中に先生の家で着付けを習っている。

 

なので水曜日、私は朝から子どもが帰るまで

お稽古三昧というなんとも贅沢な暮らし。

 

最近は自分で着られるようになったので

人に着せる「相手着付け」をしている。

 

着付けが楽しい、と私が話していると

「そんなに着物が好きなら成人式で着付けをしてみない?」

と誘ってくださった。

 

来年1月では私は補助くらいしかできないが

それでもちょっと楽しみである。

 

ただ毎月第3水曜だけ、先生は決まって予定がある。

「その日はごめんなさいね」という特別な日。

 

何があるのかというと、高校のご友人と集まって

おしゃべりをする日なのだ。

 

ご飯を食べながらダラダラとしゃべり倒すという

なんとも楽しい日。

 

メンバーは最初は5人だったが、だんだん広がり

男性の友人も来るようになった。

 

また日によって体調によって来れないメンバーもいるので

 

「毎月第3水曜日、場所と時間だけ決めて来れる人だけ来るの。

いつまでできるかわからないからね、

やれるときにやらないとってみんなで言ってるの」

というこの会合、とっても素敵だ。

 

外食が好きでお友達が多く、いつも忙しい先生だが

私のことを「娘みたいなものよ」と可愛がってくれている。

 

お茶のお稽古がない日に着付けのお稽古に行くと

たいていお昼ご飯に誘ってくれる。

 

「あなたを連れて行ってあげたかったのよ」

 

なんて仰っていろいろ連れていってくれるが

昼から刺身や天ぷら、寿司を食べ、御食事のあと

コーヒーとお菓子も食べに行く(全部先生持ち)ので

本当に恐縮してしまう。

 

ありがたくいただいているんだけども。

 

この前、私を連れていきたいというお店に

先生のお友達もそこに行きたがっているからという理由で

初めましてのマダムとともにカウンターで寿司を食べた。

 

マダムトークは聞いているだけで楽しかったし

おもろい体験と美味しいものをいただけて最高であった。

着物の役員も務めている先生だからとにかく顔が広い。


というのもあるし、本当に慕われている。


「この前 何十年か前に教えていた生徒さんが来てね、

『子どもの七五三の写真を見て、先生に着付けてもらったなぁ

って思ったら先生に会いたくなっちゃって』って。」


「あなたみたいに、親子2世代で教えて欲しいと

また来てくれたり。嬉しいことよねぇ」


私もその人の気持ちがよくわかる。


先生なら突然訪ねても、何十年ぶりに訪ねても

絶対歓迎してくれるだろう。


こんなふうに「訪ねたくなる家」はなかなかない。

人が集まる場所なのだ。


教室に行くと見知らぬ方がいることも珍しくないが

みんなにこやかに「こんにちは^^」とお話してくれる。


「着付け教室の変な勧誘に困ってる友人がいるから

助言してあげて欲しい」と頼まれ、先生はその人を自宅に招き

買ったものや着付けの方法をみてあげたことがあった。


「これらは全部着付けに必要だし、買って損なものは

買ってないわ。着付けの仕方も大丈夫。安心しなさいね」

と教えてあげたのだという。


「着付けの方法っていろいろあるけどどんな方法でも

着れたらいいのよ。」と柔軟な姿勢だ。


でももちろん着付けに関しては

「はいもう一回着付けしましょう^^」

と午前中で5回とか6回とか全然着付けさせられる(笑)


美しく着付けるって難しいのよ。


――――――私の尊敬する素敵な先生であり

素敵な女性であり、素敵な人間である2人の先生の

お話でした。



おわり。

こんな記事も読まれています